Echoの日記

ゆっくりと言葉を綴る日々

La quatrième couverture | 4枚目の表紙

半年ぶりくらいに神保町の古書店街を訪れた。

特にお目当ての本があるわけではなく「どこか行きたいところでもある?」と夫が言うのに「散歩がてら古本屋さんでも覗きに行きたいかも」と私が答えた。

 

通り沿いに古い文庫本を並べてある店、年代物の文学全集や専門書を扱う昔ながらの古びた店々の並ぶ中、かなり明るくまだ出来立てのような書店が私の目をひいた。

ちょっと覗いてみると、どうやら一つ一つの棚を棚主さんが借りているらしい。それぞれの棚に、その借主さんの個性を表す本たちが飾られている。

 

その中の一つの棚は全部フランス語の本だった。

30年も前になるがフランスに住んでいて、最近またさび付いたフランス語の学びなおしをしている。

表紙の絵に惹かれ、ついパラパラとページを繰ってみる。少し、いやかなり難しいかも知れないがなぜかその本に一目ぼれしてしまい購入。なんと200円。

 

その店に入ってみてあることを思い出した。以前記事を投稿していた note というプラットフォームで知り合った方が、スペースを借りご自分の書かれた作品を本にして売っているという記事を投稿されていた。

店員さんに伺うとどうやら同じ店の別館がすずらん通りにあり、そちらの方にあるようだった。店はすぐ見つかった。

 

3階に上がったすぐのところに彼女のスペースはあった。懐かしいな。note でご自分の作品のこと、神保町の貸しスペースのことなど熱心に語られていた。

壮大なSFタッチの一冊が面白そうで購入させていただいた。読後感をなんとかお伝えしたいなと思っている。

 

その店には喫茶と軽食のコーナーがあり、照明を少し落としたその店にはアンティーク調のテーブルと布張りの椅子が置かれ、この書店で購入したのだろうか読書をしている髪の長い女性がいた。

 

その後は特にあてもなく、古い本を見たり二階に大切に飾られた文豪たちの初版本などをひやかし、最後にシェークスピアの本を格安で二冊購入し家路についた。

 

まだまだ長居をしたかったが夫はすでに飽きてきたようだったのでその日の収穫は4冊だけ。「今度は一人だけで来よう」と、そっと誓った。

 

話は少し離れるが、note にフランス駐在中の思い出の記事を投稿するうちにフランス語学習の火がついて、昨年九月から近所の小さな語学学校でフランス語の初歩から学びなおしている。

 

優しいフランス人講師はレッスンが始まる前に必ず "Quoi de neuf?" (何か新しいことはあった?)と尋ねる。

神保町の古書の店でフランス語の小説を200円でゲットしたことを話すと、彼は「その本を買うことにした決め手は何だった?」とさらに尋ねた。

私は、まず表紙の絵がとても気に入ったこと、そしてぱらぱらとページをめくってみて、難しそうだけれど面白そうだと思ったと伝えた。

いや、伝えたかったけれど、ただページをめくるのではなく、ぱらぱらと...そう、ざっとめくる感じを伝えたかったので、英語でそれを示すleaf through を使いながら答えた。

 

私のたどたどしいフランス語を我慢強く聞いてくれた先生は、フランス語では leaf through のことを、feuilleter と言うのだと教えてくれた。feuille はフランス語で葉っぱを意味する。英語でも葉を意味する leaf を使うという共通点に心が躍った。

 

そして、もう一つ読んだことのない本を選ぶ決め手の一つに、la quatrième couverture があると言う。la quatrième couverture は、4番目の表紙という意味で、日本語ならば本の裏表紙だ。そこには、本の要約や抜粋、著者の説明が書かれているからね、とのこと。確かにそうだ。

 

でもその話がとても興味深かったのは la quatrième couverture という表現。

因みに表表紙がla première couverture(一枚目の表紙) で、それぞれの表紙の内側には、la deuxième couverture, la troisième couverture という名称がある。

 

在仏中にはまだ電子書籍などあるはずもなく、フランス人と言えば紙の本と美しい筆記体、そして正しい文法を愛するというイメージがあった。もちろんくだけた表現はあるにしろ、例えば小学校では我が子達も正しい文法を徹底的に教えられたようだ。彼女達は「マダム◯◯は、ちゃんと書けないと定規で手をピシッと叩くんだよ」と半泣きで私に訴えたものだ。(因みに娘たちはなんとかピシッは免れたようです)

 

フランスとフランス語の本。エクリチュールを大切にする何か古めかしくも誇り高い感じに惹かれる。

 

そう言えば今年の夏にオリンピックを控えたパリではセーヌ川の護岸に立つブキニストと呼ばれる古本の露天商達が、セーヌ川で行われる開会式の邪魔になると、当局から立ち退きを命じられたという。ブキニスト達はこれに猛抗議をしたそうだ。この対立に対しマクロン大統領は、「撤去の必要なし」との大統領令を発したとのこと。(日経新聞 2月25日 )実は大統領自身、ブキニストでの本選びを楽しんできたとのことで、これもフランス人と読書の文化を感じさせるエピソードだ。

 

買ってきた本は、Michel BUSSI の推理小説

正直、まだまだ私の仏語力では敵わないが、いつか読み上げたいと思っている。

 



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